まち寺ジャズライブのお話し〈高応寺*三郷市〉|読むジャズライブ

法事がおわったばかりの高応寺(埼玉県三郷市)。お香のかおりと凛とした空気が満ちている本堂で、ジャズライブを開催させていただきました。
お寺の門を入っていき、 靴をぬぎ足袋がわりの白い靴下をさっと履いて、美しい畳にあがります。
畳にあがると不思議と心が鎮まる感じもあり、住職が「まだばたばたしていますがご準備どうぞ」と法事のお仕舞いをしながらお声がけくださった最中でも、早くも安らかな気持ちになっていきました。
高応寺のジャズライブ体験
開催日時と出演者
日にち:2023年2月12日(日)
時間 :15時開演
出演 :Punch!
岡淳(おかまこと):サックス&篠笛
江藤良人(えとうよしひと):ドラムス
場所 :高応寺(埼玉県三郷市早稲田)
高応寺のお堂でジャズライブのステージ作り
高応寺さんでの初めてのジャズライブは、温かいお客さまに囲まれて楽しく終演しました。
この日のライブは、高応寺さんのことが大好きな方たちも、声をかけあって来てくださったようで、住職によると、ご近所の方のみならず、遠く、静岡や水戸、世田谷から来てくださった方もいらしたそうです。
皆さん到着されるのもとても早くて、なかには一時間以上もまえから着いている方までいらっしゃいました。楽しみにしていてくださって嬉しいです。笑
今回のライブステージは、本堂の一角。

ご本尊をはさんで、L字型に敷かれた美しい畳が客席です。昨年秋、初めてお寺を訪れたときに「ステージはどこがいいか」住職と相談して決めました。
住職曰く「ご本尊のいらっしゃるあちらの場所でも大丈夫なんですけどね」とさらりと仰る あちらの場所とは、法事のときなど、住職がお経を読まれる “あの場所” 。畳から少し高くなっていて我々はふだん上がることのない、いかにも厳かなあの “板の間” でした。

「乗ってもいいんですか?」
驚いて思わずうかがうと「大丈夫ですよ~」と楽しそうなお声の軽快なお返事がかえってきました。
調べてみると “あの場所” は “内陣” という名前がついているようですね。ここに乗っていいということにも驚きましたが、ステージを作ってもいいなんて。考えてもみないことでした。
住職は「ただ…」と続けて「畳から一段あがってしまうとお客さまとの距離感が生まれてしまうんですよね~」と仰って。
そうですよねと頷きながら、訪れる皆さんと、日ごろから “温かい関係を築くこと” を大切にされているお考えがよく伝わってくることを感じていました。
住職 酒井菜法さんと高応寺
住職の酒井菜法さんは、D&Department が進めるプロジェクト「埼玉県全63市町村キーマン活動」で、三郷市のキーマンとして認定され、地域と連携する役割を担っていらしたり。臨床宗教師として活動もされています。
臨床宗教師とは、被災地や医療機関、福祉施設などの公共空間で心のケアを提供する宗教者のことだそうで、欧米ではチャプレンと呼ばれているそう。
昔とちがい、檀家制度のない私たち世代は、心の拠り所を持ちにくいといいます。
高応寺では、「ホタルの夕べ」 「ロータスガーデンマルシェ」「がんカフェ」「ヨガ」 など、さまざまな集いを企画開催されているので、ご近所の方はもちろん、遠くの方でも訪れる理由がたくさんある、訪れやすい場所に育ててくださっているようです。
高応寺については、開催前のブログにも少し記載しています。
高応寺で『Punch!』
住宅街のオアシスでサウンドチェック
高応寺は、小さな森のような環境です。日本庭園のようなお庭には、井戸水をひいた小川が流れ、チョウザメが泳ぐ池もあり、ホタルや啄木鳥(きつつき)もやってきます。
大通りから少し入った静かな住宅街の中にあり、隣は公園。とても穏やかな地域なんですね。

ミュージシャンのお二人は、お寺に到着するととても手際よく楽器を本堂に運び込み、この日も、あっという間に、楽器やマイクを組み立てて、美しいステージを作りあげてしまいました。
そして、いよいよ『Punch!』独特のサウンドチェック開始です。
楽器のチェックはもちろんですが、Punch!では、エフェクターを使った電子的な音のチェックも入ります。
高応寺で初めてのドラムサウンド、そして、マイクを通して流れる「パンチパーマ」の合唱。住職も少しびっくりされているようにも見えました。
「音の大きさどうでしょう。ご近所は大丈夫でしょうかね」
静かな住宅街にももれ聞こえそうな楽器の音に、ミュージシャンも私も少し心配になりましたが「ご近所のみなさん、むしろ喜んでくださる方も多いので」と寛大なお言葉。
さらに住職は、その独特の電子的なループ音が流れるサウンドチェックを録画して「いまからでも間に合います!ぜひどうぞ!」とSNSに投稿してくださいました。
「訪れる人によってちがう景色がみえるといいと思っている」
住職 酒井菜法さんは、秋の打ち合わせでそう仰っていました。
どんな演奏になるのかは、誰もが未体験で知らない状態。
けれど、一流の音楽家がやって来た!わくわくするね!
菜法さんは、そんな空気を温かく振り撒いてくださっているようでした。
音量は調節し、さらに、お客さまが入ることで音もほどよく吸収され、静かな住宅街に流れる代表曲『パンチパーマちりちり』は、きっとご近所の皆さんも喜んでいただけたと思います。笑
二人きりでビックバンド『Sing Sing Sing』♪
お二人のユニット名は、”Punch!”(パンチ)です。
ジャズミュージシャンは日々いろいろな奏者と演奏をしているので、お二人が一緒に演奏するのは頻繁ではありませんが、この二人きりのユニットを結成してからはもう二十年になるそうです。

岡淳(おかまこと)さんはサックス奏者ですが、篠笛もフルートも演奏されます。江藤良人(えとうよしひと)さんは、ドラマーですが、その音色の多彩さといったら類をみない存在。
岡さんが篠笛を吹きはじめると、ドラムスからも篠笛にあう温かい音色が聞こえてくる。
岡さんが軽快にサックスを吹きはじめると、江藤さんも軽快なリズムを刻みつつ、江藤さん自身も楽器になってしまいます。←必見。
岡さん曰く「涙ぐましい努力とアイデア」で、ここには居ないさまざまな楽器の音色も再現。
この日も、二人きりで演奏するビックバンドの楽曲 “Sing Sing Sing” を披露し、まるでビックバンドが演奏しているかのような見事な演奏に、お客さまからは大喝采♪をいただきました。
〈ちょっと余談〉
お二人が参加する『MGQ(モダン・ギャグ・カルテット』という絵本作家の中川ひろたかさん主宰のバンドがあります。中川ひろたかさんは、ほとんどの子どもたち歌えるんじゃないかと思うほど有名な、あの『にじ』や『みんなともだち』という曲を書いた方ですが、このバンドが最高なんです。
今回お二人が演奏した “Sing Sing Sing” で使われるようなアイデア満載の〈音の技〉がふんだんに使われるバンドで、絵本とジャズの共演もある。MGQのジャズライブもぜひどこかで企画開催できたらと、強く念じているところです。+.(‘v`)+
中川ひろたかさんについてはコチラ
MGQの楽曲がきけるサイトはコチラ
Punch!の代表曲『パンチパーマちりちり』へ
パンチの代表曲『パンチパーマちりちり』の本番。
一見ふざけているようにも聞こえそうな曲名ですが、演奏はいたって真面目で難しい。さまざまな “音のアイデア” や “高い技術” を要する楽曲です。
しかし、覚えやすいんですね。小さなお子さまも確実に覚えてしまい、帰りには「ちりちりちり♪」と魔法にかかったように言いつづける不思議な曲です。
ところが、この日の高応寺さんにはお子さまがいませんでした。しかも、おそらく全員がパンチのお二人を初めて目にする皆さんです。
パンチの曲を初めて浴びている皆さんへ、ミュージシャンが「パンチパーマ」の魔法を仕掛けます。題名を聞いただけで大爆笑だった皆さんに、今度は、岡さんからのご指名が飛んでくる。
住職の酒井菜法さんは、最初から全力で「ちりちりちり♪」と楽しそうに合唱してくださっていました♡そして、次々指名されていく皆さんも、自然と「ちりちりちり♪」。いちばん前に座ってくれたお姉さまは、とつぜんのご指名に「ちりちりちり」と戸惑いと笑いの入り交じる小さな声で、恥ずかしそうにちりちりしてくださっていました。笑
笑ったり、感動したり、驚いたりしながら、こんなふうに、お堂でのコンサートは穏やかに終演していきました。
そして、終演後
終演後、体内にリズムをとりもどした皆さんの表情は、いつもとてもイキイキしています。笑顔もたっぷり。

演奏中、わたしの近くに、体を前に乗りだしていかにも真剣に聴いてくださっている方がいました。
熱心な姿に惹かれて、休憩時間にお声をかけさせていただき「前のほうに移らなくて大丈夫ですか?」とうかがったところ、「見えなくてもいいんだよ~。いやあ素晴らしいね。感動した。」そう静かに何度もいってくださいました。
この方は、住職が定期的にだされているお手紙の中の「ジャズライブの案内」をみて、足を運んでくださったそうなのです。
終演後も「本当に素晴らしいね。どんなものかなと思って来てみたんだけどね。予想以上に感動した」繰り返しそう仰って、おみやげにCDもお求めになってくださいました。
忘れられないヒトコマです。
そして帰り際、「脳からいいものがい~っぱいでてきた~」「ひさしぶりにプロの演奏を聴いて最高でした!」と皆さん口々に声をかけてくださいました。
SNSにも、「よく知った曲、初めての面白すぎるオリジナル、〇〇の名手が2人、^ – ^。 近所でこんなに楽しめることがあって本当に良かったです。」という投稿を発見。
たくさんの言葉をありがとうございます。
言葉をもらえるのは嬉しいです。
お寺というライブ会場
音楽家によく似合う「場所」選び
一流の音楽家の皆さんに演奏をお願いするのですから、ジャズライブの開催場所選びは真剣です。
大好きなライブハウスではない場所で、ジャズライブを企画する。その一番の目的は「何かの事情でライブハウスになかなか足を運べない人」や「ジャズライブは聴いてみたいけれどどこで行われているのか調べられない人」と、最初の出会いをするためです。
暮らしのなかでふらっと通りかかる場所で “一流の音楽家のジャズライブ” に出会えるなんて、ちょっといたずらっぽい企みになっているところも、好きなポイント。
.+:。゚☆
場所選びでこだわるのは、演奏するその場所が「ミュージシャンに似合う場所」であってほしいことがまず一番。それは即ち、聴いている私たちが「ストレスなく聴ける環境」という意味でもあります。
場所を選ぶ時に最も大切にしている感覚はだいたい三つ。
- 心静かに過ごす人がいる場所
- 地域に大切にされている場所
- 行ってみたいわくわく感が生まれる場所
こんな感じでしょうか。
ジャズピアニストで作曲家の大野雄二さんが「ミュージシャンはどんな場所でも演奏するんだよ」と仰っていたことがありました。どんなピアノでも、どんな箱でも、というそんな文脈だったと思います。
大野雄二さんは、私がとても大切に思う存在なので、ミュージシャンの信念としてその言葉は胸にしっかり刻んでいます。
つまり、一流の音楽家に似合う場所というのは、必ずしも、豪華だったり高級だったりということを意味しません。
大野雄二さんの仰る「どんな場所でも」に当てはまるような、演奏に最適とは言えない環境であったとしても「ここがいい」と思うことはあるだろうと考えています。
大切なのは、地域に「大切にされている場所」かどうか。または、地域にとっていい場所になろうとしている場所かどうか。なんとなく場を持っているわけではなく、大切に育てている誰かがいる場所です。
遠くても行ってみたくなる場所
遠くの人から見たときに、どんな理由でもいいので「行ってみたいな」というわくわく感が芽生える場所であることも大切にしています。
私が思う一流のミュージシャンの皆さんも、一つ一つの演奏をとても大切にしています。
「大切な渾身の演奏」には「大切にされている場所」があってこそ「心地よく聴ける」心地いいバランスが生まれていくのだと思うのです。バランスが崩れているとなんとなく気になって、集中して聴けなくなるんですよね。。
全てわたしの感覚ですが、ここからちょっとズレているなと感じるときは、「やってはいけない」センサーが作動します。
「あそこのカフェでライブできるみたいだよ」という情報を教えていただくこともありますが、ライブが出来れば何処でもいいというわけでは決してないんですね。
お寺には、大切な信念もあり、わくわくもある。
ちょっと参拝するだけでなく「お寺に入ってゆっくりできる」催しは貴重な機会。お寺とは、わたしの願うジャズライブとも相性のいい、魅力のつまった「場」だと思っています。
まち寺プラットフォーム
高応寺さんとは、昨年2022年に「まち寺」というプラットフォームで出会いました。
初めて「お寺でジャズライブをしてみたい」と考えたのは2017年。その時は、まだ「まち寺」さんとも出会っていないので、2018年に、初めて開催したお寺でのジャズライブ(池上本妙院)は、自力で出会った場所でした。
池上本妙院さんは、塀から顔をだしていた利休梅に惹かれ、しばらく見惚れたことが記憶にあり、時を経て「そうだ、あのお寺でライブをさせてもらえるかしら」と考え始めたのが始まりです。
その後、たまたま知り合いを通じて、本妙院さんを紹介いただくことができ、思いきって扉をたたくところまで漕ぎつけました。
ふつうに扉をたたいても良かったのかもしれません。ただやっぱり、初めての交渉はとても緊張するんですよね。
あの時のドキドキも思い返せばいいものです。でも今回のように「まち寺」というプラットフォームを通じてお寺と出会えるのもまた素晴らしい仕組みだと思いました。自分で歩ける範囲を飛びだして、遠くのお寺とも出会うことができるのですから、画期的!
お寺はいま、わたしの思う大切な「出会いたい場所」になっています。
※まち寺さんに投稿したライブレポートはこちら「高応寺のまち寺ジャズライブのお話し」へ
高応寺さん、安永寺さん、二つのお寺でもまた開催させて頂きたいですし、まだ知らない遠くのお寺にも出会っていけたらいいなと思います。お寺でジャズライブ、日本全国あちこち行ってみたい!
thank ÿ٥ϋ(*Ü*)♡