ファシリテーターという仕事(企画の仕事辞典)
理解したつもりでいた言葉。伝えたつもりで伝えきれていなかったことは、よくあります。日々の暮らしの中でも仕事でも。
ことに仕事となると、業界によっても、使う言葉の定義が少しずつ違うんですね。ある意味新鮮。フリーランスになってから特に、この言葉の解釈の微妙なちがいに気がつくようになりました。
ファシリテーターという仕事
ファシリテーターという役割りをいただいて、この仕事=言葉について考える機会がありました。
ファシリテーションという言葉をネット検索してみると、なんと、日本ファシリテーション協会という協会名がでてきました。いろいろな協会があるものですね。
その協会の説明には、こんなふうに出てきます。
【ファシリテーションとは】
https://www.faj.or.jp/facilitation/
ファシリテーション(facilitation)とは、人々の活動が容易にできるよう支援し、うまくことが運ぶよう舵取りすること。
集団による問題解決、アイデア創造、教育、学習等、あらゆる知識創造活動を支援し促進していく働きを意味します。その役割を担う人がファシリテーター(facilitator)であり、会議で言えば進行役にあたります。
引用:日本ファシリテーション協会「ファシリテーションとは」より
分かりやすい。
ファシリテーションをするファシリテーターの仕事とは、課題解決やアイデア作りの「最初のベースとなる場作り」や「議論の進行」をする仕事。
思えばこの仕事は、私の会社員時代には、特にファシリテーターという言葉を意識することなく、多くの社員があたりまえのこととして担っていました。
ただ、こんなふうに誰にでも伝わる言葉で「(日々の)その仕事内容」を説明できる人は、あまりいない(いなかった)のではと思います。
会社員が意識しないファシリテーターという役割り
さて、ファシリテーターという言葉は、会社員時代に “業務の中で” 使っていたかしら?そう考えると明確な記憶がありません。
少なくとも会議の場などで「あ、では、ファシリは私が担当しますね」みたいな言葉の使い方はしなかった。
企画担当でも秘書担当でも、ファシリテーションは、業務の中であたりまえのようにこなす仕事だったからかもしれません。
ファシリテーションの得意不得意はあったとしても「議論のベースづくり」はチームで協力して整えることもできました。そういう「体制」が、日ごろの業務の流れの中にうまく配置されていたんですね。
エンジニアもデザイナーも、自分たちの業務で「議論の場」が必要になれば、仲間のデスクにふらっと立ち寄るか、あるいは、チームミーティングの席上で、上司や課員に「必要なメンバーはこんな感じで認識合っていますか?」「時期はこの辺りでどうでしょう」などと相談することで解決できたのです。
・議論に必要なメンバーは誰だろう
・議題(テーマ)はどうする?
・議題の項目(アジェンダ)は?
・議論の投げかけ(プレゼン)は誰が作る?
・議題ごとの時間配分はどうしよう
・議論のゴールはどこにする?
・一回ですむ話し?数回に分けてする話し?
・いつ頃、あるいは、いつまでに実施する?
・スケジュール調整は誰がする?
・アナウンス(メール)はいつ誰がやる?
まずは、こんなふうに必要な要素を洗い出して「議論する場」を整えていく。
誰もがファシリテーションできるのに、誰もファシリテーションをしているという意識はなかっただろうと思うのは、社員の多い会社で、ファシリテーションが仕事の基本だったからかもしれません。
ファシリテーターの技術を使ってできたこと
オフィスを子供部屋のようにするプロジェクト
ファシリテーターという役割りは、関係者が多いときや異業種の人たちの合意が必要なときに、その真価を発揮する仕事なのだと思いますがどうでしょう。
この方法を使って進めた仕事の一つに、無機質なオフィスのインテリアを子供部屋化するというプロジェクトがありました。
目的は、組織横断の自由な意見交換、放課後のフリートークの充実。
オフィスを子供部屋のようにリフォームし、アイデアを無邪気に話せる雰囲気をつくろう!チーム内でそう決めたあとは、実行にこぎつけるまでには合意をとるべき関係者(上司陣や他部署)が沢山います。たとえばこんな風に考えを進めていきました。
・A部長はこういう意見にちがいない
・B部長は違う考えかもしれない
・AからHまでいる部長さんたちの課題は?
・みんなに共通する課題は何だろう
・みんなに共通する課題の解決策を提案できる?
・集まる必要はあるか
・集まって合意してもらうメリットは?
・最初におさえておく部署はどこだろう
この手順は、ファシリテーションするときの仕事の進め方とほぼ同じ。
必要な議論をし尽して、合意へ。関係者みんなが気持ちよく次のステップに進めるように段取りを組む手順です。
ファシリテーターという仕事の技術は、こうして基本的な仕事の進め方にも応用することができました。
後日談~プロジェクトを実行したら合意方法を相談されるようになっていた
日常業務のなかに当たり前のように存在していて、誰もがあまり意識していない仕事(スキル)は、きっとたくさんあるのだろうと思います。
オフィスのインテリアを子供部屋のように改変することで、日ごろからみんなが心に持っている「純粋な願望」「無邪気な心」を思い出して、商品の企画に反映させていきたい。そんな思いがベースになったオフィスインテリアのリニューアル。
このプロジェクトについて、各組織の合意をとって進めたあと、意外だったのは「どうやって実現できたのか」「どうしたら各組織の承認をもらえるのか」と、いくつかの部署から相談しに来てくれる人たちが現れたことでした。
「うちは〇〇部に承認がもらえなかったんです」
「実現方法をヒアリングさせてほしい」
同じことをしたかったはずなのに、なぜか出来ないという相談。
そのときは、私も何故だろう?と思いながら、実現までにこなしたことを順を追ってお話ししていただけでした。ファシリテーション技術(思考)を使っていたという意識もなく、特別なことをしているという意識もありませんでした。
しかし、いまふりかえってみると「合意にもっていくため」のあの手順は、ファシリテーターとして培ったスキルだったと言えるのだと分かります。
言葉の定義のむずかしさ
ファシリテーション技術一つをとっても、人によって、その言葉をどう意識していたかが変わるのでしょう。
さらに、その言葉の定義は、企業によっても業界によっても違ってくる。
一人一人が「ファシリテーション」という言葉でイメージする「仕事内容」は具体的にはどんなことなのか。おそらく少しずつ違うだろうと思っておいたほうが良さそうですね。
見えない仕事~プロフェッショナルでも「会社は辞められない」と思う理由
会社員の先輩や友人たちが、いまの仕事に満足していないけれど、会社を離れる勇気はないと話すことがままあります。
「一歩会社の外にでたら使いものにならないよ~」
ビックな役職もついていて、たくさん部下もいて、周りからも慕われている先輩がそう発言したときには「絶対にそんなことはありません」と心を込めて伝えました。
スキルを広く世の中のために使ってくれたらいいのにな、という切なる願いもこめていましたが、一方で、先輩のそういう気持ちも分かるような気がしています。
うまく言語化できていない各人の仕事。
世間一般の言葉におきかえた瞬間、スキルが薄まって聞こえる仕事。
業界によって企業によって、使う言葉のニュアンスも少しずつ違っている。
だからこそ、たとえば「ファシリテーションが得意です」と説明できたとしても、それがどの程度のスキルなのかは表現しにくい。
得意分野を、外の世界にも通じる言葉に意識して整えておく。そう意識して言語化しておかないと、自身の仕事スキルを伝えることは難しいのかもしれません。
ちなみに、ファシリテーションのプロフェッショナルだと私が思う友人に「ファシリテーターとかファシリテーションっていう言葉、社内で使う?使ってたっけ?」と聞いてみたところ、「うーん。一時期ちょっと流行ったくらいで聞かないなー」と興味のない口ぶりでした。笑
彼女は、(外にでた私からみたら)立派なファシリテーションのプロフェッショナルで、どこに出ても頼りにされる存在だと信じていますが、自覚は無いのだろうと思います。
多くの人が自分でも意識できていない、しかし、みんなが頼りにしている役立つ「仕事能力=スキル」は、まだまだ沢山 “見えるところ” に隠れているだろうと思います。